第8章 カノン
《智サイド》
ここに住み始めてから、ビールを飲んだことがない翔が
ビールを飲みたいなんて、珍しいことを言った。
俺としては、飲み相手が出来るから嬉しいんだけど、どういう心境の変化?
せっかくだからと、一緒にもう一本飲んだのはいいが
翔はたった一本のビールで、アルコールが回ったみたいだ。
瞳は潤んでるし、足元もふらついてる…
なんだかヤバイな…
そんな姿を見ていたら、ドキドキしてきた。
少しでも酔いを醒ましてやろうと、水を持ってきてやると
コップを両手で包み込んで飲んでるし…
可愛すぎんだろ!なんだよ次々と!
誰かが俺の理性を試してるのか?
水を飲み『はぁ~』っと息を吐く翔に声をかけると、また俺の機嫌を伺うような発言。
「ごめんね、いつも迷惑かけて…」
俺を見上げる瞳に不安の色が見えるのは何でだろう?
なんでコイツは、こうも俺の様子を不安気に伺うんだ?
俺がお前をここから追い出すとも思ってるのか?
好きなだけ居ていいって言ってるのに。
追い出すなんてマネ絶対しないのに…
それどころか、いつまでだって繋ぎ止めておきたいのに…
翔に手を差し出すと、その手を取ることさえ躊躇うんだ。
どうすればお前は、俺の言うことを信じてくれる?
俺の傍で、穏やかな表情だけをさせるにはどうしてやればいい?
翔の手を取り歩き出すと、ちゃんと手を握り返してくるんだよなぁ。
嫌われてはない…
いや寧ろ好かれてると思う。
じゃなきゃ、一緒のベッドになんか寝れるわけないしな。