第8章 カノン
「はい」
ソファに座る智にビールを手渡した。
「おう、サンキュー」
笑顔でそれを受けとる智…
その優しい微笑みを近距離で見てしまったせいで、胸がキュンっとなった。
慌ててソファの下に座り込み
智から顔が見えないようにした。
店の中や、帰り道ならまだいい…
暗闇なら、顔が紅くなったって見えないから。
でも、こんな電気が煌々とついた中で、意味もなく顔を紅くさせてたら絶対怪しまれる。
プシュッとプルタブを開ける音がした。
「ほいっ」
俺の背後から、缶ビールを持った智の手が伸びてきた。
「え?なに?」
驚いて、振り返り智を見上げた。
「乾杯しよ?」
「あっそうか…でも何に乾杯?」
「ん?翔と初めて酒を飲むことに、かな?」
「そんなことに乾杯するの?」
「そんなことじゃねぇよ。
初めては最初の一度しかないんだぞ?
どんなことでも大切にしないとな?」
「うん、そうだね」
俺は急いでプルタブを開け、智の缶ビールにコツンと当てた。
「「乾杯」」
コクコクと喉を鳴らしながらビールを飲んだ。
「あ、美味しい…」
「だろ?風呂上がりのビールは最高だよ」
「うん。お風呂上がりにビールなんて飲んだことなかったから知らなかった」
「お?大人の階段ひとつ昇ったか?」
智が俺の頭をクシャクシャにしながら、からかった。
やっぱり智にとって俺って子供なのか…
相手にされるわけないよな。
元々、智にそっちの趣味はないから相手にされるわけないんだけどさ…
それでも子供扱いされるのは、少し哀しいな…