第8章 カノン
お風呂から上がると、いつものように智がビールを飲んでた。
「ねぇ、俺もビール飲んでいい?」
キッチンから声をかけると、ソファに座った智が振り返った。
「ん、いいけど。
珍しいな、翔がビールなんて」
「ちょっと飲みたい気分…」
普段好んでビールを飲むことはない。
飲めなくはないけど、そんなに好きでもないから、飲む必要性を感じなかった。
でも今日はアルコールの力を借りないと
智のベッドに、一緒に寝られない気がした。
昨夜も当たり前のように、智と一緒に寝た。
昨日まで心地よく眠れた場所だった…
それが智のことを好きだと認識してしまった俺には、緊張する場所に変わってしまった。
智が俺のことを相手にしないのなんて、最初からわかってはいる。
俺の独りよがりな想いだって…
それでも心臓は勝手にドキドキするんたから、仕方ないだろ?
変に断れば『なんで今日は一緒に寝ないんだ?』って聞かれそうだし
そう聞かれた時の答えなんて考え付かないし。
それに、嫌でも明日からは一緒に寝るしか、寝る場所がなくなる訳だし。
「翔?どうした?こっちに来て飲めよ」
冷蔵庫の前で動きが止まったままだった…
「あ、うん」
「俺にも、もう一本持ってきてくれる?」
「智も?」
いつもお風呂上がりは、一本しか飲まないのに…珍しい。
「おぉ、せっかくだから付き合うよ」
「うんっ」
冷蔵庫から缶ビールを2本取り出しリビングに向かった。