第8章 カノン
《翔サイド》
智の手が優しく俺の頭を撫でる。
この手も、智自身も、自分だけのモノにしたい…
そう想いながら、智の背中に腕を回し抱きしめた。
すると智の腕が、俺のことを抱きしめ返してくれた…
言ってしまいたいよ『智のことが好きだ』って。
でもそれを言ってしまって、智が離れて行ってしまうことが怖い…それだけは絶対嫌なんだ。
今、こうして甘やかして貰えてるだけで十分。
これ以上望んじゃいけない…
ひとつ大きく呼吸をして、智から体を離した。
「翔?」
「ありがとう智、もう大丈夫…」
胸を借りて泣いた恥ずかしさもあり
視線を伏せたままお礼を言った。
「そうか…」
智の優しい声が聞こえ、頭をくしゃっと撫でられると、それだけで安心する。
これからも俺のこと見捨てないでね?
我が儘言ったりするけど、出来るだけ智に迷惑はかけないようにするから。
智に教えられた沢山のこと…
ひとりで生きていく為に必要なことばかりだけど、驚きの連続だった。
でも、人を好きになることが苦しくて…
触れられただけで切なくて泣きたくなるなんて
一番の驚きだよ。
幸せな感情の筈なのに、それに付随して獲られる感情は幸せなモノだけじゃないんだね…
それでも『好き』という感情を知ることが出来た喜びに勝るものはないから。
智と出逢えて…好きになって良かった…