第8章 カノン
ニノと別れ歩き出すと、翔との距離がいつもより遠い。
俺なんかした?
さっきの並びはいいとしても、今はふたりだけなんだから、いつものようにすぐ横を歩けばいいじゃん。
そうは思ったけど、それを言うのもおかしいのか。
翔がどこを歩こうと自由な訳だし…
ただ俺が寂しいだけで。
気を取り直して翔に話しかけた。
「お前さぁ…」
「え、なに?」
「やっぱり人の気持ち、よくわかってるよな…」
「あぁ、あれは…」
そう言うと、少し黙りこんだ翔…
「さっきのは俺の気持ちだから…」
翔から語られたのは、俺が思ってもいなかった内容。
「俺が出ていった後はベッドカバーも枕カバーも買い替えて欲しいな…」
翔がそんなことを思っていたなんて…驚いて立ち止まってしまった。
だって、さっきの話では恋人同士の関係だから思う嫉妬心だろ?
もし俺に恋人が出来て、あのベッドを使うような事があっても
ふたりで選んだベッドカバーを使って欲しくないなんて…ちょっと可愛すぎねぇか?
立ち止まり俯いてる翔…
今の発言を自分の我が儘とでも思ってんのか?
あの家に置いてあるお前の物は、今日のベッド一式を含め、全て俺が購入した物だから
お前がとやかく言う資格はないとでも思ってんだろ。
俺からしてみれば、こんなに嬉しいお願い事はないのに…
翔の横に立って頭を引き寄せた。
俺の思っていることがちゃんと伝わるように…
「安心しろ、今、翔が使っているモノは、誰にも使わせねぇよ…
お前が嫌だって言うなら、ベッドだって買い替えてやる」
翔の体の力が僅かに抜け
俺に少しだけ体重を預けるように凭れかかってきた。
「…ありがとう…智…」