第8章 カノン
「じゃあ、ふたりともお疲れ」
「お疲れさまでした」
「お前どうやって潤さん家行くの?
流石に歩きじゃ無理だろ?」
「一度家に帰ってから、自分の車で行くよ」
「そっか、気を付けてな」
「お?優しいじゃん」
ニノさんがニヤっと笑った。
「これから車で出掛けるってなれば、心配ぐらいするだろ」
「ふふっ、ありがと。
じゃあね、また明日…」
「おう…」
「おやすみなさい…」
ニノさんが歩き出すと、俺たちも家に向かって歩き出した。
ふたりきりになったら急に気まずい…
いつもより、少し距離を置いて歩いた。
「お前さぁ…」
「えっ、なに?」
「人の気持ち、よくわかってるよな…」
「なんで?」
「さっきのベッドの話…」
「それのどこが?」
「普段寝てるベッドで、他の人を抱いて欲しくないって気持ち…
俺じゃ考えつかないよ」
「あぁ、あれは…」
俺だって前から思ってた訳じゃない…
実際、潤の家に住んでいた時は、そんなこと考えもしなかったし。
そう思ったのは、実は昨日ベッドを買っていた時なんだ。
俺と寝るために購入してくれたベッド…
でも、いつかこのベッドに、俺じゃない他の誰かと智が寝るんだな…って思ったら哀しくなった。
俺があの家を出ていく時、ベッドを新しくして欲しいとは言えないけど
せめて、ふたりで選んだベッドカバーと枕カバーは全部買い替えて欲しい…
そう思ってしまった。
こんなこと智に言ったら我が儘?
「さっきのは俺の気持ちだから…」
我が儘かもしれない…
でも伝えておきたい。
自分の気持ちを知った今
なんでそんな風に思ったのか、良くわかったから…
だって嫌なんだ…
俺と智のふたりの場所に誰かが入り込むのは…