第8章 カノン
仕事が終わり、3人並んで歩いて家に帰る。
俺はあえて智の隣ではなく
ニノさんを間に挟んでニノさんの隣を歩いた。
「そう言えば最近、潤さん店に来ないな?」
「うん、今仕事忙しいんだよね。
新しい施設を立ち上げるんだって」
「ずっと会えてないのか?」
「ううん…ここのところ、潤のマンションに行きっぱなしだから」
「へっ?そうなの?」
「うん。潤がそうして欲しいって言うから仕方なく?
疲れてるせいか、ひとりで夜を過ごしたくないみたい。
意外と子供なんだよね、ひとりで寝られないなんてさ」
そんな風に言ってるけど、ニノさんの表情は嬉しそうだった。
「潤にとってニノさんって、やっぱり特別なんですね」
「なんでだ?」
ニノさんの向こう側から、智が俺の方を見た。
「だって俺、潤と一緒に朝まで寝たことないよ?」
「え?そうなの?」
今度はニノさんが、驚いたように俺を見た。
「そう言えば、そんなこと前に言ってたな」
「ニノさんは知らなかったんですか?
潤のマンションに居たのは一週間くらいでしたけど、客室を与えられてたんです。
しかも潤は、絶対そこで寝ないで、自分の寝室に戻って寝るんですよ」
「知らなかった…
潤の家に誰かいる時は、俺は潤の家に行かないで、潤が家に来るようにしてたから」
「俺は寝室に入ったことさえないです。
潤に『この部屋には入るな』って言われましたから」
「俺は最初から潤の寝室で一緒に寝てたから…客室なんて用意されなかった」
「ニノさんがいるから、客室を用意するようになったんじゃないですか?」
「どういう事だ?」
智が首を傾げた。
「だって嫌でしょ?
いつも自分が寝てるベッドで他の人を抱いてるなんて」
「そうだね…確かにそれは嫌だわ…」
「潤もその辺はわかってたんじゃないですか?
だから寝室は、ニノさんしか入れなかった」
「そっか…」
小さく呟いたニノさんの顔には、幸せそうな微笑みが浮かんでた。