第8章 カノン
「…智」
「えっ⁉」
突然ニノさんの口から出た智の名前にドキッとして
大きな声を出してしまった。
ニノさんを見ると微笑んでいて…
「智に相談出来ないようなことだったら
いつでも相談に乗るからね?」
「あ…はい…」
バレてない、よね?
ちょっと驚いたくらいだし…
「そっかそっか、やっぱりなぁ…
だったら相葉さんがフラれるのも仕方ないよねぇ」
ニコニコと嬉しそうに、勝手にひとりで納得してる。
本当にあれだけでわかった?
ニノさんって人に対して敏感だからなぁ。
お客様だけじゃなく、俺のこともよく見てくれてるし…
そのお陰で助けられたりもしてるけど
逆に隠し事や嘘も通用しない人なんだと、この数ヶ月で学んだ。
前に智とニノさんについて話したときに、『ニノに嘘つこうなんて時間の無駄、ジリジリと追い込まれるよりは正直に話しちゃった方が楽』って苦笑いしながら言ってたし。
だったら俺も下手に隠さず、ニノさんに正直に話してアドバイス貰おうかな。
これから俺はどうするべきなのか…
智の傍に居続ける為には、智に俺の気持ちを知られる訳にはいかないよね。
「あの…ニノさん…」
「ん?なに?」
「後で話し…聞いて貰えますか?」
「勿論いいよ?智がいない方がいいよね?」
絶対もうバレてる…
「はい…」
「帰りじゃ智が怪しむだろうから、明日早めに店に来るね?それでいい?」
「はい。わざわざすみません」
「全然。ふふっ、そんな深刻そうな顔しないで。
俺は良い内容の相談だと思ってるけど?」
そうなのかな…
俺が智に対して抱いてしまった想いは良いことなの?