第8章 カノン
「じゃあ、また来るね」
相葉さんが、いつもの様に笑顔で挨拶をして帰っていった。
俺が断ったことで、相葉さんがこの店に来てくれなくなるんじゃないか、って少し心配だったけど
『また来る』と言ってくれたことで、安心した。
「翔…大丈夫だったか?」
智が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
その距離の近さにドキッとし、少し体を引いてしまった。
「あ、うん。大丈夫だったよ…
ちゃんと断ったし、相葉さんもわかってくれたから」
「そうか…ならいいんだけど…」
「俺、片付けしてくるね」
「あぁ…」
智から逃げるように、テーブル席の片付けに向かった。
どうしよう…智のことをさっきまでと違った意味で好きだと認識してしまったせいか
今までと同じように接することが出来なくなったかも…
智の近くにいたい…
でも、近くにいるとドキドキしちゃって、おかしな態度が出そう…
どうすればいい?
こんな経験初めてで、どうしたらいいのかわからないよ…
「…ょう……翔…」
「えっ⁉」
肩を軽くポンポンと叩かれ、ビクッと体が動いた。
俺の反応が大きかったせいか
肩を叩いたニノさんも驚いた表情をしていた。
「どうしたの?ボーッとして…
さっきから呼んでるのに、全く気がつかないんだもん」
「あ…ごめんなさい…」
「疲れた?昨日よりだいぶ長くピアノ弾いたから」
「いえ、疲れてないです…
ただちょっと考え事しちゃって…
すみませんでした」
「相葉さんのこと?」
「いいえ…相葉さんの件は、片がついたので大丈夫です」
「ふ~ん…じゃあ何をそんなに考え込んでたの?」
ニノさんの視線が探るように、俺を見つめた。