第8章 カノン
《翔サイド》
相葉さんに先日のお誘いの返事を聞かれ『ごめんなさい』って断った。
それでも相葉さんがもう一度聞いて来たから、心苦しくて頭を下げ謝った。
本当にいい人なのはわかってるんだ…
でも特別な意味の好意を持ってくれているとわかったから
なんとなくその誘いを受けちゃいけない気がして…
なんでそんな風に思ったのか、その答えを相葉さんが導き出してくれた。
「誰か好きな人がいるの?
だから俺と食事に行けないの?」
『好きな人』がいるのかと聞かれ、すぐに智のことが頭に浮かんだ。
大切な存在でもあるし…『誰が好き?』と聞かれれば
間違いなく智の名を最初にあげる。
でも、今、相葉さんに問われてる『好きな人』の意味は、相葉さんが俺に向けてくれてる好意と同じ意味だよね…
改めて智のことを考える。
智の家で過ごしてきた日々を振り返り、今日までの出来事を思い返した。
あぁ…なんだ、そっか。
他の人じゃ駄目なんだ…
ご飯を一緒に食べるのも、同じベッドで寝るのも
智とだから楽しいし嬉しい。
俺…智じゃなきゃ駄目なんだ…
そう思ったら、急に心臓がドキドキして
顔が熱くなってきた。
「当たり、かな?」
その言葉で、自分の気持ちの答えが出た。
「…ごめんなさい…」
「謝らなくていいんだよ?
翔くんに好きな人がいるかどうか、確認しないで誘った俺が悪かったんだから」
「誘って貰った時は、自分自身で気がついてなかったんです…」
あの時…既に俺は、智のことを好きになっていたんだ…
だから、相葉さんの誘いを受けても、何か引っ掛かって、すぐに返事が出来なかった。
「そうなんだ…じゃあもしかして、俺がキッカケ作っちゃったのかな?」
「…はい。今、相葉さんに言われて、自分の気持ちがわかりました」
「そっか…俺、翔くんにいいパス出しちゃったんだ。
だったらさ、ちゃんとシュート決めてね?」
自分の気持ちを智に伝えても、応えて貰えるとは思えない…
だって、智はそういう意味で男には興味が無いから。
「もし、万が一にでも上手くいかなかったときは、俺にシュートしてくれていいよ?
フリーでゴール決めさせてあげるから。
まぁ、翔くんがフラれることなんて、ないとは思うけどさ」
笑いながら冗談めかして言ってくれる相葉さんは、やっぱり素敵な人だと思った。