第7章 愛の挨拶
「おまたせ致しました…」
目の前にそれぞれの料理が提供され、いつものようにふたりで『いただきます』の挨拶をした。
オムレツ状態の卵にナイフを入れると、とろっと半熟状態の卵が流れ出す。
「旨そう、俺もオムライスにすれば良かったな」
「ふふっ、食べる?」
「いいのか?」
「勿論いいよ?その代わり、味覚えて今度家でも作ってよ」
「俺、一度食べて味覚えられるような天才料理人じゃねぇぞ?」
「そう?智の作る料理はなんでも美味しいから天才だと思ってた」
「あんなの基本の家庭料理だろ」
「それでも、俺にとっては今まで食べてきた料理の中で一番美味しいよ」
「大袈裟だな」
「大袈裟じゃないよ…料理食べて泣いたのはじめてだもん」
そう言ったら、智が少し哀しい目をした。
同情してくれたの?
でもそんな必要ないんだよ?今の俺は幸せなんだから。
「ほら、智…食べてみてよ。美味しいよ?」
お皿を持って智に差し出した。
「おう、お前もナポリタン食うか?」
「うん、食べる」
お互いのお皿を交換し、俺はナポリタンを智はオムライスを口に含んだ。
「「うまっ!」」
ふたり同時に言葉を発すると、顔を見合わせ笑った。
「真似すんなや」
「智こそ」
智といると、なんでこんなことさえ楽しいんだろう。
だから本当は言いたいんだよ?
『ずっと智の傍に居たい』って…
でもそれを言ってしまった時に、智の反応を見るのが怖いんだ。
笑顔で『いいよ』って言ってくれる?
それとも困った表情を見せる?
これ以上の幸せを望むことは贅沢だってわかっているけど
それでも前者の反応を見せて欲しいと願ってしまうんだ…