第7章 愛の挨拶
「わりぃ、冗談が過ぎたか…」
「あっ…ううん…急に言われて吃驚しただけ…」
「ははっ、ごめんな。さて、早く選んでメシ食いに行こうぜ」
俺は体を起こし、翔に向かって手を伸ばした。
「うんっ」
俺の手を握った翔を引っ張り起こした。
ベッドと一緒に、カバーもふたりで話し合って選んだ。
セット商品になっていたネイビーのベッドカバーと、ネイビーと赤の大きなチェック柄の枕カバーを購入。
枕カバーのひとつはネイビーが強調されたもの、もうひとつは赤が強調されたもの…
購入した全ての物を、2日後に届けてもらうよう手配し店を出た。
「ほんとに新婚みてぇ…色使いの違う枕カバーって」
「ダブル用のだからしょうがないよね。
全く同じ色のもあったけど、どっちがどっちの枕かわからなくなるし」
「いや、いいんだけどさ…
ちょっと照れるなって思って」
「そう?」
「俺、人とお揃いの物とかって、買ったことないんだよね」
「そう言われれば俺も初めてだ」
「そっか…」
「智…ありがとう」
「なにが?」
「ベッドもカバーも一緒に選ばせてくれたから」
「喜んで貰えた?」
「うん。智の家に俺専用の物がドンドン増えていって、まるで自分の家みたいだなって」
「なに言ってんだ今更…あの家はとっくにお前の家だろ?」
「えっ⁉」
「『えっ』て…そう思ってなかったの?」
「だって俺…一時的に置いて貰ってるだけだから…」
「だとしても、今は住んでるんだから、お前の家だろ?」
翔が急に立ち止まったかと思ったら、瞳が潤み出した。
「翔!ちょっと待てっ!ここで泣くな!」
「だ、て…さとしが…」
あ~もう、既に涙声になってるし…
翔が何を言いたいのかは、なんとなくわかった…
わかったけど、こんな大勢の人が行き交う路上で泣かれたら
抱きしめてやることも出来ないじゃないか。