第1章 プレリュード
「そのネクタイ、潤さんが選んだの?」
「ええ、そうですけど。それが何か?」
「いや、凄い似合ってるからセンスいいなと思って。
潤さん、お洒落だろ?
ニノのネクタイも全部潤さんが選んで買ってるって言ってたから」
「そういえば他にも買ってましたね。
あれニノさんへのプレゼントなのかな…
潤には似合わなそうと思って見てたんですけど」
「翔のじゃなくて?」
「あれを俺にプレゼントしたらセンスはないですね」
翔が苦笑いした。
「なんで?」
「可愛らしかったから。
俺にはあんなデザイン似合わない」
自分が可愛いげの無い奴だってのは自覚してるんだ。
~♪
「…ピアノ」
翔が聞き取れないくらいの小さな声で呟いた。
「え?」
「ピアノの音がする…」
「ああ、ニノだよ。
この店に置いてあるんだけど気がつかなかった?」
「ええ…店内は暗くてよく見えなかったので」
「開店前で電気落としてたからな。
店の一番奥に置いてあるし気がつかなくても当然か」
「いつも弾いてるんですか?」
「いいや、ニノも接客で忙しいから時間が空いた時に少し弾くくらいだよ。
あとは今日みたいに潤さんが来たときとか」
「潤が来たとき?」
「潤さんが好きなんだよ、ニノのピアノ。
俺もあまり細かいことはわかんねぇけど、優しいだろ?ニノの音」
そう言うと視線を下に向けた翔。
「…そうですね…
ニノさんには心があるんでしょうね」
「心?」
「いえ、なんでも…」
そのまま黙りこんでしまった翔の瞳には暗い影が落ちた。
やはりなにか訳あり猫なのか…