【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】
第2章 汝の夜は、未だ明けぬ
(ちゃんと集中できてるみてぇだな。…良かった)
モニタ越しに見守っていたユーリは、SBを出したGPSロシア大会には及ばないものの、礼之が無事に演技を終えたのを確認すると、人知れず安堵の息を吐いた。
「未熟ですが、真っ直ぐで良いスケートをする子だわ」
「ぅわっ」
突然背後からリリアの声が響き、ユーリは思わず声を上げる。
「現時点で自分の出来る事を弁え、かつそれを最大限に表現しようとしている。振付のせいかしら、どことなく純に似ている所もあるのね」
「礼之…サムライは、根性のある奴だ。サユリの振付を絶対粗末になんかしねぇ」
「そうね。だけど、今の彼には何かが欠けている」
「え…?」
「ロシア大会に比べて、どことなく今の彼には僅かな軋みのようなものが見えました。短時間のSPは凌いだようですが、FSでも同じような状態では…」
そこでリリアは、ユーリの瞳が様々な感情に揺らめいているのに気付き、言葉を切った。
「少し喋りすぎたわ。まずは貴方も競技に集中しなさい、ユーリ・プリセツキー」
「…わーってるよ。先輩が後輩の前で、無様な滑りは出来ねぇからな」
まるでリリアに何かを見透かされているような気分になったユーリは、自分が口にした『先輩』『後輩』という単語に妙な胸の痛みを覚えながら、半ば逃げるように控室を出た。
最終滑走グループに突入すると、更に世界トップクラスの選手達によるハイレベルな戦いが繰り広げられる。
それだけにこのSPでは、些細なミス1つが致命傷となるのだ。
昨季の成長期による不調を漸く乗り越えたユーリは、最終滑走グループの1番目としてリンクに立ったが、冒頭のジャンプを転倒してしまった。
(しまった…!)
「ユリオくん、惜しか~!」
「でも、回り切ってました!4回転をミスるよりは遥かにマシです!」
「アレクくん…?」
既に滑走を終えリンクサイドで観戦していた南は、3Aの着氷が乱れ転倒したユーリに嘆いたが、直後隣りにいた礼之の上げた大声に目を見張った。
(やっちまったモンは仕方ねえ…4回転じゃなかっただけ不幸中の幸いと思え!)
そして即座に体勢を立て直したユーリも、礼之と同じ事を考えながら気持ちを切り替えるべく、次の技への準備を始めた。