【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】
第2章 汝の夜は、未だ明けぬ
目立ったミスはないままプログラム後半に入った礼之は、冒頭の4回転を除けばこのプロ最難関ともいえるコンビネーションジャンプの態勢を取る。
(今の僕には、まだ世界一の争いに食い込める程の力はない…だけど、これだけは自信を持って出来る!)
熱い心とは裏腹に、妙に冴えた頭で3Lzを跳んだ礼之は、そのまま間髪入れずセカンドジャンプを跳んだ。
『これは、男子で行う者は殆どいないセカンドループ!見事な3Lz-3Loです!』
『セカンドループは、エッジエラーや回転不足を取られ易いですからね。しかし伊原選手は、今季の試合で全てこのコンビネーションジャンプを成功させています』
「やった!アレクくん、ばりカッコよか!」
「良いタイミングだね」
後輩の快挙に南は大喜びし、勇利は小さく頷く。
そしてプログラムの終盤、3Aを着氷した礼之が両手に見えない二振りの短刀を構えながらステップに入ると、会場から自然と手拍子が起こった。
ストレートラインステップを刻む礼之の姿は、まるで剣舞を行っているかのようで、観客のボルテージも共に上がっていく。
「ホンマは、エア刀は右手に1本の筈やってんけど、『両手に持ってた方が、バランスが取りやすいしスピードも落ちないから』って礼之くんに言われて変更したんやっけ…」
「『サムライ』くんの年齢と体型、そしてスピーディーなハチャトゥリアンの音楽が良い方向に作用してる。まさに今の彼だからこそ出来る演技だね」
「無理に背伸びをさせんでも、ここまで渡り合う事が出来る。そんな僕の気持ちと振付を、礼之くんは見事に証明してくれたんや」
いつの間にか隣りにいたヴィクトルを認めると、純は嬉しそうに微笑む。
やがてフィニッシュポーズの後で両手の短刀をクルリを回しながら腰に差した礼之は、割れんばかりの拍手と歓声に応えるべく頭を下げた。
控室のモニタを眺めていたクリスは、今季新たに参戦した『青い瞳のサムライ』の演技に、口笛を吹いた。
「…まるで、かつての名作『ダルタニアン』を彷彿とさせるステップと剣さばきだ。最後の試合でこんなに楽しい演技を観れるなんて、俺もうかうかしてられないな」
呟きながら控室を後にするクリスの横では、モニタを一心に見つめる緑色の双眸があった。