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【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】

第2章 汝の夜は、未だ明けぬ


(礼之…?)
不意に視界の端に礼之を捉えたユーリは、GPSロシア大会終了後のバンケットで、彼と話した時の事が脳裏を掠めた。
『僕が競技中に心掛けているのは、100%の力を出し切らない事です』
まだその頃の礼之は、自分に対して敬語を使っていたのだが、思わず「コイツは真面目に試合をする気があるのか?」と勘ぐりそうになったものの、続けられた礼之の言葉にユーリは耳を傾けていた。
「僅かな瞬間にかける体操や陸上の種目とは違い、フィギュアは特に流れを止める事が許されない競技です。あくまで僕個人の考えですが…たとえ1%でも余力を残しておかないと、失敗した時のフォローやリカバリーがし辛いと思うんです」
「余力ねぇ」
「勿論その余力を残しても、他の競技者達と渡り合えるだけの実力を身に着けておくのが大前提ですけど。競技中にどれだけ熱くなっていても、ほんの僅かでもそれを冷静に見つめ分析してる自分を維持、確立させるのが僕の今後の課題なんです」
『余力』について考えるようになってから、礼之の成績は向上したようで、それを語る彼の青い瞳を見ながら、「きっとコイツとは、これからも楽しい勝負が出来るだろう」と、ユーリが思ったのもまた事実であった。

「大丈夫だよ、ユリ。そのスピードなら絶対に跳べる…」
(今だけお前の考えを借りるぞ、礼之。ほんの少しだけ冷静な俺を…!)
リンクサイドで礼之が拳を握りしめた直後、宙を舞ったユーリが見事に4回転のコンビネーションジャンプを着氷する。
「Hyvää(良いね)!今の完璧!」
つい興奮気味に声を張り上げる礼之だが、南が目を丸くさせているのに気付くと、僅かに赤面しながら咳払いをした。
続く4Tも成功したユーリは無事に演技を終了し、冒頭の3Aも、転倒による減点以外は認定されていた。
「良く立て直したな。後はどれだけフリーで巻き返せるかだ」
「…被害は最小限に留めた。もう開き直ってやるしかねぇ」
そうヤコフに応じたユーリは、遠目からこちらを見ている礼之の方へ頭を動かしたが、ユーリの視線に気付いた礼之は弾かれたように顔を背けると、そのまま去って行く。
そんな背中を見送るユーリの胸には、これまで感じた事のない痛みが、抜けない棘のように刺さっていた。
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