【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】
第2章 汝の夜は、未だ明けぬ
「有難うございます。…そうですよね、まずはベストを尽くします。今の僕にはそれしかないから」
「頑張ってね」
「はい!」
勇利のアドバイスのお蔭か少し動悸が治まってきた礼之は、ペコリと頭を下げると、やがて自分の滑走グループの召集時間になったので、リンク裏へと移動した。
「ホンマに有難う、勇利も準備あるのに」
幾分か元気を取り戻した礼之を見送った純は、傍らに立つ勇利に礼を言う。
「僕は最終グループだから、まだ時間があるし。我が日本の次代のエースの為なら、これくらいお安い御用だよ。僕が礼之くんくらいの頃は、シニアどころか先輩達の陰でコソコソしてただけなのに」
「…ごめんな。一度も一緒にシニアのワールド行く事出来ひんまま、戦線離脱してしもうて」
「それはもう言わない約束。その代わり、今の僕に力を貸してくれてるじゃない」
かつてジュニアからシニアデビュー時期まで勇利と1、2を争っていた純は、シニア3年目に膝の大怪我で競技を中断、そして勇利がGPFで銀メダルを獲得したシーズンの全日本選手権を最後に現役を引退していた。
当初は完全にスケートから決別するつもりでいたが、勇利と交わした約束や、スケートへの本当の気持ちを自覚した礼之は、現在では振付師として勇利や礼之達のプロを手掛けているのだ。
「こうして僕が今ここにいるのは、純のお蔭でもあるんだよ。今季の純のEXも、大当たりだし」
「勇利…」
「その前に、勇利がここまで強くなったのは一体誰のお蔭か、忘れちゃいないよね?」
「おぅ、まだおったんか」
「俺、勇利のコーチでパートナーだよ?何か、俺の扱いぞんざいじゃない?」
「日本の後輩の一大事なんや。そういうデコこそ、ユリオくんに会わんでええんか?仮にも弟弟子やろ」
「最近は、勇利に負けず劣らずの塩対応でさ。つまらないんだよね」
「それは、ヴィクトルがユリオをからかってばかりいるからでしょ」
「勇利はユリオに騙されてるんだよ!これまでの悪ガキがちょっと大人しくなったくらいで、絆されないように」
「別に絆されてはないけど」
「あんな。僕らがトシ取るように、ユリオくん達かて成長しとんのやで」
「せやから、今回のような悩みも出始めたんや」と、純は心中で続けた。