【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】
第2章 汝の夜は、未だ明けぬ
その後礼之をコーチに任せた純は、抽選会場に向かって足を急がせると、案の定廊下の片隅で表情を曇らせているユーリ・プリセツキーと、彼の友人で『カザフの英雄』オタベック・アルティンの姿を発見した。
「ユリオくん」
「サユリ…」
現役時代の代名詞とも呼ばれたプログラム名から純をそう呼ぶユーリは、彼に声をかけられてホッとするものの、何処か戸惑いを隠せないでいた。
「…礼之は?」
「大丈夫や。けど、今はそっとしといた方がええ」
真っ先にユーリの口から出た礼之の名を聞いて、純は僅かにその黒い瞳を細める。
「サユリ、今回のはすべて俺の無神経な発言が原因だ。同じ大会に出場、それもナショナルジャージを着た選手の国籍を間違えるなど…彼が怒るのも無理はない」
「オタベックだけのせいじゃねぇって」
純に頭を下げるオタベックに、すかさずユーリの声が飛ぶ。
「大まかな事は礼之くんから聞いとるけど…良かったら、君らからも説明して貰えるか?」
そう純に尋ねられて、ユーリは先程よりも更に落ち込んだ顔をする。
すると、そんなユーリに代わってオタベックが口を開いた。
SPの抽選会を終えたユーリと礼之が談笑していた所に、オタベックが現れた事が発端であった。
今季のオタベックは、軽度ではあるが慢性的な腰痛に悩まされており、世界選手権の前に行われた四大陸選手権を、大事を取って欠場していた。
四大陸に参戦していれば、大会で礼之と顔を合わせる事もあったのだが、それまでずっとユーリから『サムライ』の存在を伝聞程度でしか聞かされておらず、また己の調整で精一杯で他所に目を向ける余裕などなかったオタベックは、今回初めて礼之の姿を見た時に、ユーリの陰に隠れて顔しか確認できなかったのもあり、礼之の金髪と青い瞳だけでユーリの後輩と勘違いをしたのだ。
オタベックが何気なくかけた「隣にいるのはロシアの後輩か?」という言葉が、礼之のコンプレックスを刺激しただけでなく、礼之にとっては『カザフの英雄』から「お前は眼中にない」と軽んじられたような気持ちにさせられたのである。