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【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】

第3章 闇夜の脅威を消し去れ


手早く用具を取り出した勇利は、ユーリをドレッサーの前に坐らせる。
かつて、オフシーズンのアイスショーを切欠に、ユーリは時々、バレエ教師のミナコの命令で女子の支度を手伝わされていた経験を持つ勇利に、髪を編んで貰っていた。
最初は、単に当時のユーリの前髪が演技の妨げになりそうだったのが理由だが、その後のショーでも何度か彼の世話になっていた。
「時間がないから、複雑なアレンジは出来ないよ」
「イイ」
しかし流石のユーリも、試合まで勇利に頼むような真似はしてこなかったが、礼之のあの演技を観た後、どうしても彼の手を借りたくなったのだ。
「試合前ナノニ、悪イ。デモ、カツ丼に髪編ンデ貰うト、気合入るンだ」
心なしか目元を赤くさせているユーリを鏡越しに見ながら、勇利はいつもよりきつ目に彼の髪を編み込んでいく。
「…凄かったね、礼之くん。僕が彼やユリオ位の頃は、とてもじゃないけどあんな演技は出来なかった」
「…」
「若手選手の一生懸命な演技って、ベテランがどんなに頑張っても敵わない魅力があるんだよ。僕が昔、ユリオの演技に魂を揺さぶられたようにね」
「本当ニ…?」
「だから、僕はあの時引退しなかったんじゃないか」
そう返されたユーリは、勇利との間にあった様々な出来事を思い出すと、羞恥から顔を背けようとしたが、「動かないで」と勇利の手に阻まれた。
少し前なら、勇利への想いにケリをつけた以降も、彼に触れられるとドキドキしていた筈だが、不思議と今は、そのような気持ちがなくなっているのを覚えた。
何故だろうと考えを巡らせるユーリの脳裏で、リンクでの礼之の姿が浮かんだが、直後頬に冷気を感じて思考を止める。
「そんなみっともない顔で、リンクに出るつもり?」
ヴィクトルから氷を包んだハンカチを受け取ったユーリは、勇利の手が己の髪を編み上げるまでの間、目元を冷やし続けていた。
「はい、完成。これなら、ドン・キホーテや黒鳥踊っても崩れないよ」
「ピンが落ちテモ、カツ丼ノせいニしない。カツ丼も、優勝出来なかっタ理由、僕ノせいにしてイイ」
「あはは。大丈夫だって」
日本語では人称代名詞が「僕」に変わるユーリに、勇利は愉快そうに笑う。
「勇利、アリガトウ」
「どういたしまして」
そう日本語で交わすと、ユーリは迷いの消えた顔で控室を出て行った。
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