【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】
第3章 闇夜の脅威を消し去れ
割れんばかりの拍手の中、礼之は両手をヒバリの羽ばたきの形に広げながら、天高く突き上げフィニッシュポーズを取る。
誤魔化しきれない疲労と息切れ、そして最高の形で演技をやり切った達成感から、自然と目尻に涙が溢れてくる。
本当は、感情のままに叫びたかった。
しかし、
(僕は、未だそこまでに至ってない。このヒバリの羽ばたき程度のちっぽけな存在なんだ)
両手を握りしめた礼之は、自分の顔を暫しそれで覆うと、やがてゆっくりと体勢を戻し数回小さく頷く。
(これから勝生さんをはじめ、文字通り世界のトップを目指す選手達の演技が控えてる。みっともない振る舞いはしちゃダメだ。僕は『サムライ』。スオミが大好きな日本のスケーター、伊原礼之だ)
にこやかに笑った礼之は、両手を広げながら観客に向かって返礼した。
「ロシア大会での弱点を、克服してきたか…ユーリのライバルとしては、まあ及第点といった所だな」
「未熟な自分を良く理解し、かつ今の自分が出来る最大限の力を、この舞台で見事に出し切った。本当に真っ直ぐなスケートをする子ね」
表情は変わらぬが、リリアの口から紡がれた言葉には、何処か温かみがあった。
「彼の真っ直ぐな想いに、貴方はどう応えるのかしら?ユーリ・プリセツキー」
両手で顔を覆いながら涙を零し続けていたユーリは、リリアの問いに乱暴に目元を擦ると、何度も息を吐きながら返す。
「…1年目のアイツが、あそこまで根性見せたんだ。俺らが半端な真似する訳にゃいかねぇだろ!」
「美しさは、忘れぬようにね」
闘志を漲らせているユーリに内心で安堵するものの、リリアは数えるのも嫌になるほどの忠告を付け足した。
「物凄い演技を見たよ。これであのプロを滑ろうという選手は、今後当分現れないだろうね」
控室に戻った後でクリスが感嘆の息を吐くのを、勇利とヴィクトルは首肯しながら見つめる。
すると、そんな勇利達の元へ目元を僅かに赤くさせたユーリが駆け込んできた。
「『カツ丼、髪編ンデくれ』」
以前より上達した日本語での懇願に、勇利は目を丸くさせる。
「コラ!勇利だって演技前なんだぞ」
「『頼ム』」
「いいよ、おいで」
「勇利…」
「僕もちょっと、落ち着きたかったんだ」
言いながら、後輩の演技に内心昂ぶる気持ちを持て余していた勇利は、指の関節を鳴らした。
