【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】
第3章 闇夜の脅威を消し去れ
最初は、ただのライバル意識しかなかった。
『覚えてろ、「ロシアの妖精」!いつか必ずシニアでリベンジしてやるから…!』
当初JGPFで完膚なきまでに敗北を喫した礼之は、ユーリにそんな感情しか持っていなかった。
それがいつの間にか1人のスケーターとして、そして1人の人間として、次第に礼之はユーリが気になっていったのだ。
礼之の妄想の中、ユーリは湖の前で1人静かに佇んでいた。
礼之に気付いたユーリは、そっとはにかむように微笑むと、傍らに腰を下ろす。
そのまま2人で湖面を眺めていたが、やがて礼之は、公式練習でユーリのハンカチを拾った時とは対照的な動きで、彼の手に触れた。
くせ毛の自分とは異なる真っ直ぐな金色の髪と、白樺の若葉と同じ緑色の瞳を持つユーリは、まるでスオミの神話に登場する精霊のように整った造形をしているが、別段礼之は、彼の外見に魅せられた訳ではなかった。
(君は精霊でも妖精でもない。熱い血肉と闘志を持った1人の人間でアスリート。そんな君だから…)
少しだけ戸惑ったように小首を傾げるも、自分の手を振り払わなかったユーリの身体を礼之は更に引き寄せながら、ゆっくりと顔を近付けていった。
(下らない感情から君を忘れようだなんて、僕が馬鹿だったんだ。だって、僕はこんなにも…)
天を仰ぎ両手を組んだ後で、礼之は最後のジャンプの体制に入る。
特にシニア1年目には体力が厳しい後半にも関わらず、穏やかな表情の礼之から、ユーリは目を離せずにいた。
演技だと判っているのに、礼之の手付きや視線が、まるで自分だけに向けられているような気持ちになっていたからだ。
「礼之…」
(ユリ、)
「っ?」
不意に脳裏に礼之の優しい呼びかけが届いたかと思った瞬間、リンクの礼之は、SPには入れてなかった4Tを着氷させると、右手を胸に当てた状態で微笑みながら、反対の手と青い瞳を真っ直ぐに向けてくる。
(君が好きだ)
「──!」
賛歌が終わり再び快活なテーマが流れ出すと、会場からは礼之の動きに合わせて手拍子が鳴り始める。
スタンディングオベーションで、観客が礼之の演技の終末を彩っていく中、ユーリは必死に堪らえようとするも、涙を止められずにいた。