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【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】

第3章 闇夜の脅威を消し去れ


プログラムに用いた曲には歌詞はついていないが、第2の国歌とも呼ばれているこの「賛歌」を、礼之は諳(そら)で歌う事が出来る。
幼い頃から耳に馴染んだ大好きな歌。
今季この曲がFSに決まって間もない頃、東京に来ていた純に連れられた礼之は、とある合唱団の練習会場を訪れた。
そこでは、オーケストラとのジョイントに向けて原語で「賛歌」の練習をしており、礼之は、彼らにスオミ語の発音を教えて欲しいと言われたのだ。
内心気恥ずかしさを覚えつつも、出来るだけ判り易くスオミ語で伝えた礼之は、「訳詞や英語の歌詞もあるのに、どうしてスオミ語で?」と尋ねた所、純の知り合いだという合唱の講師から「一番この曲に相応しいから」という返事が返ってきた。
わざわざ原語で歌いたいが為に集結したというメンバーの話を聞いた礼之は、彼らの探究心とこの歌を愛する気持ちに、とても嬉しくなったのだ。

「変わったわね」
リリアの呼びかけも気付かないほど、ユーリは氷上の礼之に釘付けになっていた。
前半の力強さとは対照的な柔らかく優雅な動きだけでなく、これまでのGPSロシア大会や日本大会で観た礼之の演技とは違う「何か」が、ユーリの心を捕らえて離さないのだ。
後半一番の山場で、ロシア大会では認定されなかった4回転のコンビネーションジャンプに入る礼之の姿を、ユーリは固唾を飲んで見守る。
まさに「賛歌」のメロディと一体になったような表情の礼之が、最低限の音だけを出して踏み切ると、最初の4Sに続いて見事セカンドジャンプの3Tも着氷した。
「──回り切った!」
会場の声に紛れていたが、ユーリが無意識に上げた感嘆の声は、リリアの耳にしっかり届いていた。

「賛歌」のメロディと共に礼之の脳裏に浮かぶのは、大好きなフィンランドの空と森と湖。
嫌な事もあったけれど、それでもエスポーの自然は礼之に安らぎを与えてくれたのだ。
落ち込んだ時には良く1人で近くの森に出かけ、そこで白樺の緑や湖を眺めながら、自分の心を慰めていた。
今でも目を閉じれば、あの美しい自然が…
(え…ユリ…?)
想像の中でエスポーの森を彷徨っていた礼之は、湖畔に立つ人影に青い瞳を見開いた。
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