【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】
第3章 闇夜の脅威を消し去れ
コーチと別れてひと息ついていた純は、背後から礼之の呼びかけに気付くと振り返った。
「純さん、この度は色々ご迷惑をおかけしました」
頭を下げてきた礼之を、純は目を数回瞬かせながら眺める。
「純さんは今季僕の為に色々してくれたのに、もう少しで僕は、自分勝手な我儘で台無しにしてしまう所でした」
「…どないしたん?」
「思い出したんです。純さんが今季の僕の振付と、特に今日のFSで僕の願いを叶えてくれた事」
様々な理由から渋り続けていたコーチと純だったが、礼之の真摯な懇願についに折れ、以降は礼之の為に尽力してくれたのだ。
「振付以外にも、純さんはこのプロの為に僕に色々な事を教えてくれて…お蔭で僕、以前よりもこの曲が大好きになりました」
「それは良かったわ」
「だから、僕は今日のFSで純さんやコーチ、皆さんへの感謝の気持ちを込めて、全力で滑ります!…ほんの数ミリ程度余力は残しますけど」
「好きにやり。僕は、礼之くんを信じる」
「はい!あ、でも…その、えっと…SPの時に純さんとした約束なんですけど…」
僅かに顔を赤くさせた礼之に、純は右の頬に笑窪を作る。
「僕は、『試合が終わるまではスケート以外の事考えるんは禁止』とは言うたけど…そのスケートの中には、色んなモンも含まれとるからなあ。別にそれまでもあかんなんて事言わへんよ」
純の何処か悪戯っぽい目付きを見て、礼之は口元を綻ばせた。
男子FSは、最終滑走グループの1つ前のグループの選手達が演技を行っていた。
同じ滑走グループだった礼之と南は、互いに励まし合いながら試合に臨み、先に滑走した南が見事SBを更新していた。
そして、いよいよそのグループの最終滑走者である礼之の名がコールされ、新しい衣装に身を包んだ礼之がリンクに進むと、歓声とどよめきが起こった。
「スオミネイトか。勝負に出たね、サムライくん」
「礼之くんなら、きっと大丈夫だよ」
リンクサイドの片隅で、クリスと勇利は次世代の若者に視線を送る。
そして彼らとは別の場所では、ユーリがリンクの礼之を見つめていた。