【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】
第3章 闇夜の脅威を消し去れ
「おいも結構長い間一緒に競技しとるけど、アレクくんがあそこまで大声出して応援って滅多になかけん、驚いた。ばってん、それだけユリオくんに対して真剣なんやろうね。今回のワールドでユリオくんに会うの、アレクくん本当に楽しみにしとったから」
南の言葉を聞いたユーリは、胸に刺さっていた棘のようなものが抜けていくのを感じる。
しかし、同時に礼之の真剣な青い眼差しとあの時の唇の感触がよみがえり、今度はまた違った仄かな疼きが、心の奥底から湧き起こるのを覚えた。
「アレクくんはちょっと頑固なトコもあるけど、優しゅうて良か子やけん」
「ああ。…判ってる」
南の言葉に我に返ると、先程友人にしたのと同じ科白を違うニュアンスで口にしたユーリは、そのまま会場を後にする南を見送った。
(とにかく今は試合だ。その後でちゃんと話をしよう。きっと礼之も…)
少しだけ不安の取れた表情になったユーリの横顔を、オタベックといつの間にか傍にいた勇利が、さり気なく見守っていた。
「昔から君は頭の回転が早く、瞬時にすべき事を把握出来ていたのは知っていますが…今の君はもう選手ではないのですよ」
口調は穏やかだが、それでいて何処か咎めるような礼之のコーチの言葉を、純は神妙な面持ちで聞き入る。
「君があの子の為に良くしてくれているのは、私も知っています。ですが、ここから先はあの子自身に任せなさい。失敗を恐れるあまり大人が先回りばかりしていても、選手は成長しません」
「…申し訳ありません」
ジュニアの頃、彼の世話になっていた事もあった純は、少しだけ懐かしさを覚えつつコーチに頭を下げる。
すると、コーチも同じ気持ちだったのか「何だか昔を思い出しますね」と小さく笑みを零した。
「君には本当に感謝しています。今回あの子がSPを凌げたのは、他でもない君のお蔭です。…純くんが、あの怪我を乗り越え引退後もスケート界に残ってくれたのは、私個人としても嬉しい」
「コーチ…」
純への労いも忘れずに、コーチは話を続ける。
「私達が出来るのは、ここまでです。後は、あの子を…礼之くんを信じましょう」
「はい」
表情を和らげた純は、コーチに頷きを返した。