• テキストサイズ

【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】

第3章 闇夜の脅威を消し去れ


「諍いの発端である俺が言える立場ではないが…今は競技に集中しろとサユリにも言われただろ」
「…判ってる」
オタベックは、ハンカチを握りしめたままふさぎ込んでいるユーリを見て、小さく息を吐いた。
今回の事件が起こる以前から、オタベックはユーリとのメールや電話のやり取りの中で、いつしか勇利よりも『サムライ』の話題が増えてきた事に気が付いた。
始めは、単に年下のライバルとの対戦に喜んでいただけのユーリが、次第に彼個人についても気になり始めているような発言を、頻繁にするようになったからだ。
一部を除いた自分以外を全て敵と考えていたかつてのユーリから随分と成長したものだと思う一方、特にGPF前後辺りから『サムライ』について話すユーリは、明らかに彼に競技者以上の感情を抱いているのが見て取れた。
(俺が見る限り、おそらくユーリも『サムライ』も…)
それは、かつて成長期の不振に喘いでいたユーリが、立ち直る切欠となった勇利に対して抱いていた淡い想いとはまた違ったものであり、そして…
「ユーリ!ぼさっとしてないで早くリンクに来んか!」
「チッ。わーってるっての!」
ヤコフの怒鳴り声に、漸くいつもの減らず口を復活させたユーリが、乱暴にジャージを脱ぎ捨てるとリンクへ足を踏み入れる。
こういう所はやはり名コーチだと感心しながら、オタベックもまた、腰に巻かれたコルセットの具合を確かめながら支度を始めた。

公式練習を終え、再び控室に戻ろうとしているユーリの背後で、勇利以外に聞き覚えのある声がした。
「南くん、どうしたの?」
「勇利くん。実はさっき、リンクサイドに忘れ物してしもうて」
首を動かすと、勇利の後輩で礼之の先輩でもある南の姿があった。
小柄だが生命力と躍動感溢れるスケーティングをする彼は、礼之と特に仲が良く、国内外の大会で2人一緒にいる事が多いと聞く。
何気なく視線を送っていたユーリだったが、不意に南がこちらに近付いてきたのを見ると、身構えた。
「ユリオくんもお疲れ様!」
「お、おぅ」
屈託のない笑顔で挨拶され、ユーリはしどろもどろに返す。
「3Aの調子も良さそうやね。一昨日は惜しかったけど、ユリオくんならきっと大丈夫ばい!アレクくんも、SPん時ユリオくんの事ちかっぱ応援しとったし」
「え…?」
南の言葉に、ユーリは思わず無防備な声を上げた。
/ 26ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp