【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】
第3章 闇夜の脅威を消し去れ
2日後。
昨日に続いてFSの公式練習に臨んだ礼之は、新しい衣装の具合を何度も確認していた。
「良さそうですね」
「はい」
コーチの言葉に礼之は小さく首肯する。
それまでの、フィンランドの自然をイメージした青と緑と白基調の衣装とは異なり、新しい衣装は白いシャツに黒のベスト、下はストライプの入った礼之の大好きな赤系のパンツであった。
さながらそれは、礼之の生まれ故郷であるフィンランドの擬人化『スオミネイト』を模した衣装であり、今季FSのプロ『フィンランディア』を滑る礼之の勝負服でもある。
左の二の腕部分に袖章のようにつけられた小さな羽飾りも、縫製の際に妹が離脱や落下をしないよう細工を施し、礼之自身もリンクの上でシャツを振ってチェックした。
(これは、賛歌の歌詞にもあるヒバリの羽。羽ばたけるかそうでないかは…僕次第だ)
練習を終えた礼之は、ジャージの上着を羽織りながらリンクを出る。
会場内を歩いていると、最終滑走グループの選手達がこちらに近付いてきた。
勇利と視線が合い軽く会釈を交わした礼之だったが、少し遅れてユーリとオタベックが歩いてくるのを認めると、様々な感情から視線を反らす。
ユーリは、そんな礼之に表情を僅かに曇らせながら通り過ぎようとしたが、その時ジャージのポケットからハンカチが落ちたのに気付くと、歩を止めて上体を屈めた。
と、
「あ…」
「…?ゴ、ゴメンっ!」
偶然ユーリのポケットからハンカチが落ちるのを見た礼之は、咄嗟にそれを拾おうと膝を曲げ手を伸ばした瞬間、ユーリの白い指に触れたのを覚えると慌てて引っ込めた。
「別に、そこまで驚かなくてもいいだろ?」
「…」
自分の指に触れた温かなものが、礼之のそれだった事に、ユーリはらしくもなく胸をドキドキさせていた。
それは礼之も同様で、一瞬ではあるが久々にユーリと触れ合った事に鼓動を早めていると、ボソリとした呟きが聞こえてきた。
「…俺の手に触れる以上の事もした癖に、何今更ビビってんだよ」
「え…?」
「…」
暫く奇妙な空間と沈黙が2人の間を支配していたが、スタッフの声に我に返った礼之は、努めてさり気なくハンカチを取るとユーリに手渡し、小走りに去っていった。