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【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】

第2章 汝の夜は、未だ明けぬ


固有名詞は出さずに、礼之は事の経緯をざっくりと妹に話していた。
「メルちゃんの言う通り、僕は余裕のない男だ。その人はわざと間違えた訳じゃないのに、おまけに庇ったその人の…友達にも腹を立てて…」
「まあ、アレクにとっては一番のコンプレックスだからね」
「僕も、メルちゃんみたいな髪と瞳の色が良かったな。それならまだ、ちょっと彫りの深い日本人に見られたかも知れないのに」
「…アレクは、昔から呼ばれ続けてる私のあだ名って知ってる?」
不意に妹に尋ねられた礼之は、目を丸くさせる。
「『残念ハーフ』。私のビジュアルは、スオミの血が感じられないんだって」
「誰がそんな酷い事言ったの?教えてくれれば、僕がとっちめてやったのに」
「気にしてないし。それに…丁度その頃のアレクは、お祖父ちゃんの部屋で墨汁被る程参っちゃってたから」
続けられた言葉に、礼之は当時妹も同じような境遇に晒されていたにもかかわらず、今の今まで知らなかった事に愕然とした。
「僕、自分ばっかり不幸なんだって勝手に思い込んで、メルちゃんも僕と同じ想いしてた事に気付かなかったよ…ゴメン」
「アレクの苦しみに比べたら、私のは大した事ないわよ。それに、自分の非を素直に認めて謝れるのは、アレクの良い所だわ」
「…有難う」
妹の優しさに、礼之は礼を言う。
そして新しい衣装に触れながら、どうして自分がこのFSを選んだのか、改めて考えてみた。
様々な事情から、コーチや振付師の純からも難色を示されたこの曲を、どうしても礼之は滑りたかった。
それは、決して自分の生い立ちやルーツから等ではない。
(そうだ…何よりも僕は、この曲が大好きだったからだ)
そんな礼之の気持ちに、最終的にはコーチも純も、そして今傍にいる妹も存分に応えてくれたのだ。
「僕…やるよ。皆が僕にしてくれた沢山の事に、今の僕の精一杯で恩返しがしたい」
「そうね。アレクの大好きなスケートで、大好きな人達に想いを伝えるのがベストじゃないかしら」
それを聞いた礼之は、ふと脳裏にユーリの姿が浮かぶのを覚える。
(ユリ…)
自ら拒むような真似をしておきながら、それでも彼の少し傷ついたような緑色の瞳と表情が、礼之の頭から離れなかった。
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