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【YOI】輝ける銀盤にサムライは歌う【男主&ユーリ】

第2章 汝の夜は、未だ明けぬ


男子SPの結果は、1位が日本の勝生勇利、2位にクリストフ・ジャコメッティ、3位のエミル・ネコラとほぼ予想通りの並びであった。
腰の痛みを隠し切れなかったオタベックは5位、転倒によるミスが響いたユーリは、僅差ではあるが6位と出遅れていた。
一方の礼之は大きなミスこそなかったものの、思ったよりも点が伸びず10位スタートで、上位の勇利と合わせるとどうにか日本の3枠獲得圏内ではあるが、改めてシニアとワールドの厳しさを思い知らされていた。
(まだまだ、僕には足りないものが多い。それは大会前から判ってた事だ。でも、これ以上どうすれば…)
大方のマスコミによるインタビューが、勇利と彼のコーチであるヴィクトルに集中しているのを良い事に、礼之は半ば逃げるようにリンク裏から控室へと移動する。
するとその時ポケットの中のスマホが震え、確認すると今日は会場まで応援に来ている双子の妹から「お疲れ様。無事にFSに進めたのね。これでやっと渡せるわ」と、何やら意味深なメッセージが入っていた。
「もしもし、メルちゃん?」
緊迫した勝負の世界からひとまず解放された気持ちから、家族の声を聞きたくなった礼之は、スマホ越しに彼女の名を呼んだ。

「渡せるって、何を?」
「あら、せっかちで余裕のない男は嫌われるわよ」
口の達者な妹の返しに、礼之はここ数日の事を思い出して言葉を詰まらせる。
人気のない会場の片隅で待ち合わせをした礼之は、双子の妹である『メル』ことメルヴィからあるものを見せられた。
「新しいFSの衣装よ。細かなサイズ調整は後でやるとして、無駄にならずに済んで良かったわ」
「これは…」
「今季のFSのプロが決まった、ってアレクが嬉しそうにしてた時から、もしもアレクがワールドに行けたら着て貰おうと、密かに作ってたの。まあ、ダメだった時は四大陸かアイスショー辺りに回すつもりだったけど」
あっけらかんと話す妹とは対照的に、礼之はその衣装を手にしたまま表情を曇らせる。
「ねえ、メルちゃん。今の僕は、この衣装を着る資格が本当にあるのかな?」
「…何かあったの?」
ただならぬ礼之の様子を見たメルヴィは、彼とは異なるこげ茶色の瞳で双子の兄の顔を覗き込んだ。
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