第37章 幼い恋の先(三成)
あれから5年。
「瀬上城を陥落させよ。
援軍を送る算段をしている」
(瀬上と言えば……)
『三成様、お変わりありませんでしたか?』
会えばいつもそう言って花のような笑顔を見せてくれていた童女。
彼女が嫁がされた家だ。
「田村殿が寝返ったと言う事ですか、光秀様」
「ああ、斥候から先程報告が入った。
内密に動いていたようだがな。ククク」
光秀の密偵に気取られないようにするのは易くない。
『光秀に勘繰られれば最後と思え。
どんな事でも捏ち上げ、滅ぼされるぞ。
まぁ、そう言う奴自身、胡散臭くて信用ならないけどな』
最初、光秀を紹介してくれた後の秀吉の言葉を思い出す。
「光秀様、田村の女子供は…」
気遣わし気な声で問う三成。
「ん?ああ、いないぞ。
この度の裏切りに嫁方が自分に味方しないと知って、即刻離縁を突きつけ、実家に送り返してしまったとか。
薄情というか不義で無能な男だな」
「そうですか…」
「?…三成、お前がそんな笑みを見せるとは、珍しいな」
「私は、笑っていましたか?」
(おや?気付いてなかったのか)
「ああ、とても良い笑顔だったぞ」
(冷たくて、邪悦な、な)
「直ちに策と兵を出します」
「頼んだぞ」