第35章 死に損ないの嫁ぎ先ー前ー(元就)
「…ぉ…ぉと…さまに……」
((声が…))
「母上にも…お世話になりました…と」
涙が手の甲を濡らしていた。
「それだけで良いのだな」
「……私も…ご一緒したかった…と…」
華月は唇を強く結んで、嗚咽に耐えた。
元就から見える、伏して丸まった華月。
元就は、その小刻みに震える背中を見ながら、静かに立ち上がった。
翌日、明け方早く、華月が眼を覚さない刻限に元就は出掛けた。
「お前達の娘は俺が保護している。
『お世話になりました』と言って泣いていたぞ」
元就は『一緒に逝きたかった』と言った華月の言葉は伝えなかった。
「華月…っっ、すまん。
お前を連れて行く場所ではないのだ…わかってくれっ」
首(こうべ)を垂れて泣く華月の両親に元就は非情にも抑揚のない声で
「おい、コイツらを苦しまないよう一瞬でヤれ」
そう言って、背を向けた。