第35章 死に損ないの嫁ぎ先ー前ー(元就)
沈んでゆく身体、
沈んでゆく意識、
その中に、温かな何かが触れた気がした。
(このまま……死んで……)
「松寿丸様を呼んで」
(天井…)
ぼんやりとしていると男性の声が入って来た。
「眼ぇ覚ましたって?…どれ…ふぅーん、
思ったより別嬪だなぁ」
顔を近づけ、不躾に品評されたようだった。
「お前、名前は?
死のうと思って海に入ったんだろ?その理由はなんだ?」
矢継ぎ早に質問が飛んできた。
しかも、無遠慮に。
「松寿丸様、まだ眼を覚ましたばかりですわ」
横から女性が嗜める。
(助けられたんだ…)
「…(あ)…」
息を出すが、声が出てこなかった。
「(わたし)…」
もう一度試したが、声は出なかった。
「…(なんで)…」
喉には何の違和感もないのに。
「名前は華月ね」
元就は華月の顔をジッと見た。
(華月…もしかして…)
娘がいると言っていた。
あの男の娘で間違いないだろう。