第31章 春待ちて氷柱落つー後ー(秀吉)
涙は止まった。
泣いて赤い目尻と、照れてるのか赤い頬。
顰められた眉。
「なら、俺を、やっぱり嫌いか?」
情けないほど俺はジタバタしてる。
「嫌い…に、なれたら良かった…」
その言葉に俺は込み上げる嬉しさを一生懸命抑えていた。
「仇として殺したいと思うくらい憎ければ、嫌いになれたのに…」
そうだ、
華月は俺を罵り、憎んでいたはずなのに、俺を殺そうとはしなかった。
その代わり、自分が死のうとした。
「ちゃんとした生きる意味も与へられないで、ダラダラと生きて、突然、嫁に行くかって言われた時は言葉がなかったよ」
「申し訳ない…」
「嫌い…なのに、嫌いになれないのは、
どうしてなんだろう…と思った……」
「そしたら、気付いた。
ああ、私は、それなりに、
にぃ様の事好きなんだって…」
力なく笑った。
困ったように、でも照れたように、笑った。
(それなりに、か…)
今はそれなりにでも、
「いずれ、凄く好き だって言ってくれよ」
「いずれ…戦のない世を創ってくれたら、言うよ」
華月は願うような声でそう言って、柔らかに笑った。
まだ冷たさを含んだ春風のような笑顔だと思った。