第31章 春待ちて氷柱落つー後ー(秀吉)
秀吉様が花見に誘ってくれた。
梅の花が満開になった紀州の国まで。
「遠出だからな、ゆっくり行こう」
でも何で、突然?
行く道、馬上で色んな話を聞いた。
藤吉にぃが苦労して偉くなったこと、
どんな思いで戦をしているのか。
でも……
(戦をして命を奪う事には変わりない)
私の心は頑なだった。
(この人は私の大切な人を奪った戦をする人だっ)
どうしても心から許す気になれなかった。
ついた場所は……
「梅ばっかり…」
田んぼ、桑畑、丘陵地に梅。
「少し、あの村に似てるだろ」
「……」
思い出すから、
梅の甘い香とは反対に胸は苦く酸っぱかった。
少し冷たい風が青空に吹き上がる。
鳶が舞い過ぎ、一声の鳴き声が響いた。
独りになってからの事が胸にひしめいて、
鳶の声が叫んでるように聞こえて、
とても、悲しかった。
涙がこみ上がってきた。
(かぁさん、とぉさん…にぃ様っっ…)