第31章 春待ちて氷柱落つー後ー(秀吉)
華月が俺を質問責めにする。
「じゃあなんで、突然、嫁に行けって言ったの?
私が邪魔になった?
ここにいたら都合が悪いから?
嫌い?自分を憎く思う女の顔なんて見たくないから?」
「何言ってっ、そんな事ないぞ。
邪魔でも、嫌いでもない。
顔を見たくないなんて思ったことない」
俺は慌てて否定した。
顔を見たくないどころか……毎日見ないと落ち着かないなんて…
(言えないだろ)
「俺は、お前がいるから毎日……」
何だと言うんだ?
(毎日、御殿に帰ってくるんだと?
毎日、楽しいんだと?)
そこまで考えて、胸の奥がギュッと締まるのを感じた。
「藤吉にぃ様?」
華月の声が耳を滑った。
華月の唇が何かを言っている。
「にぃ様、大丈夫?」
桃色の唇が近づいて……
「にぃ様ッ」
揺さぶられて我に返った。
「⁉︎…ぁ、ああ、悪い。
冷えるから帰るか」
気付きかけた何かを振り払うように、
誤魔化す様に華月の手を取って歩き出した。