第31章 春待ちて氷柱落つー後ー(秀吉)
新年が来た。
御殿で働く女中さん達はお暇をもらって実家に帰っていて、屋敷内は静かだった。
年末
「華月はどうするの?」
「チョットッ、あんたっ」
「私は…帰る家、ないんです」
何とか失笑を浮かべてそう言った。
「ごめん。そうだったの…知らなくて」
「良いんです。仕方ない事ですから。
皆さんが帰って来るの待ってますねっ」
そう言った寂しい年末。
独り除夜の鐘を聴く…と思ったのに、
「華月、鐘つきに行こうぜ」
秀吉様が誘ってくれて嬉しかった。
(煩悩…人の欲望108つか…)
「寒いだろう」
白い息を吐いて笑う秀吉様も寒そうだ。
「こっち来い」
引っ張られた思うと、冬用の羽織の中に抱き込まれていた。
「少しは暖かいだろう?」
得意げに笑って私を見下ろす秀吉様。
(顔、近いっ////)
その近さに思わず顔を背けてしまった。
寒くて暖かい大晦日の夜。
明けて新年、
「華月、朝餉がすんだら宮参りに行くぞ」
一緒に食事をしていた秀吉様にそう言われて、
新年の宮参りに出かけた。
「その鴇色の着物、よく似合ってる」
優しく笑いかけられて、心の臓が飛び上がった。
(甘くて勘違いしそうになるよ…)