第31章 春待ちて氷柱落つー後ー(秀吉)
秋が来た。
「柿を剥いてきました。どうぞ」
夜、部屋で仕事の文を読んでいると華月が入って来た。
「もうすぐ稲刈りの時期ですね。
今年の米の出来はどうでしょうね」
他愛のない言葉も勘ぐってしまう。
(戻りたいのか?
此処は嫌か?)
あの村で農作業をしていたであろう華月。
社の下にあった大きな柿の木の実を獲り合って笑った遠い日。
平和だったけれど、心も暮らしも豊かではなかった。
今は、
「華月…ここの暮らしはどうなんだ?」
暮らしは豊かになった。けれど、華月は
「悪くはないです」
無理して笑っているような気がした。
心は豊かになっていないみたいだ。
弾けるように笑っていた。
声を上げて俺を呼んでいた。
俺を慕ってくれていた。
素直で可愛いかった。
負けず嫌いで、頑張り屋だった。
大人になった今も可愛い。
クルッと丸い眼。
ちょっと下がった眉。
小さめの唇
化粧を施せばもっと女らしくなるはずだ。