第31章 春待ちて氷柱落つー後ー(秀吉)
夏
「アレは菖蒲ですかね?杜若ですかね?」
田の向こうの空き地に咲く藍色の花を指差して華月が眼を細める。
「どっちだろうな。
手折って帰るか?」
「ううん、アソコに在るべきだよ、にぃ様」
あの日から少しずつ、華月が戻って来ていた。
気がした。
(在るべき処に在るべき…)
華月はいつもそう言っていた。
(お前の在るべき処は何処だ?)
何度も思ってはその言葉を飲み込んだ。
まだ死にたいか?
兄貴の処に行きたいか?
あの村で住むのがいいのか。
俺は答えを出しあぐねていた。