第30章 春待ちて氷柱落つー前ー(秀吉)
何もかも苦しい。
息をするのでさえも……。
いっそ、息が出来なくなれば楽なのに。
にぃ様…
土気色の肌。
紫色の唇。
開かない眼。
冷たかった。
あぁ、にぃ様は死んだんだ。
死んでも誰にも悲しんでもらえない。
屍は戦場に置き去りにされる。
会えただけでも満足すべき?
志願して戦に行ったならまだしも…
行かなければ死なずに済んだ。
戦が、侍が、
「憎い……こんな世に未練なんてない」
なのに、私は何故生きているの?
「殺してよ…死なせてよ…
…誰の、何の、どうして生きなければならないの…
いらないよ、全部いらない…」
にぃ様の横で私は泣いていた。
そんな夢を見た。
眼が覚めて思った。
秀吉様は何故私を助けるのか…と。