第30章 春待ちて氷柱落つー前ー(秀吉)
焦った。
焦って、焦って、無我夢中で華月の手を引いた。
ジャバジャバと濡れて重い華月を引き上げ、岸まで歩いた。
「何やってるんだ…華月…」
「…と…秀吉様…」
「藤吉でいいよ」
「……もう、放って置いて…死なせてよ…」
「駄目だ」
「なんで?」
「何で…死のうなんて」
「だって、もう、生きてる意味なんて無いから」
光のない瞳。
昔、あの村で、幼い華月は貧しくても、両親がいなくても、笑って、精一杯生きていた。
なのに…今は…
死ぬ事ばかりを考えてる。
生きてる意味が無い……
『生きる意味を与へてやれば良いだろ』
政宗の言葉が脳裏に蘇る。
「…華月…生きる意味があれば、良いのか?……」
「……」
待っても華月は答えない。
ようやく
「……分からない…」
と言った。
「…そうか、分かった。
とりあえず帰ろう」
手を取って抱き上げた。