第30章 春待ちて氷柱落つー前ー(秀吉)
俺がなにも言えないでいると
「おいおい、家康、そりゃあんまりだ」
政宗が入って来た。
「立ち聞き」
「お前に用事があって来たら聞こえただけ」
「どうだか」
政宗はいつも楽しそうで、
「秀吉、そいつ、生かしたいなら、
生きる意味を与へてやれば良いだろ」
突拍子もない事を言う。
「無理矢理 生かすのは無理がある。
だったら、生きたい と思う気持ちにさせれば、自害なんて考えないだろ」
「政宗さん、単純過ぎ」
家康が呆れている。
政宗だって色んな重荷を背負い、
傷つきながら生きて来ただろう。
だから、生きる事の大変さを知っている。
なのに、この男は、何でもない事のように、簡単に提案する。
簡単で単純で、時に救われる。
「それとも、俺が貰ってやろうか?」
「馬鹿、やるわけないだろ」
「ちぇーっ」
「ったく」
「案外、大切にしてんだな、妹」
「なんだそれ、当たり前だろ」
瞳と同じカラッと晴れた蒼空のような気分に変えてくれる。