第30章 春待ちて氷柱落つー前ー(秀吉)
荼毘に伏した煙りが空へと昇っていった。
頼りない細い煙り。
それを華月は虚ろに眺めているだけ。
「華月…」
俺はかける言葉がなかった。
憎言を言われた昨日。
泣いて訴える華月に、言葉と共に苦渋を飲み込む戦の犠牲者がどれほどいるのかを知った。
死んでいった者だけが犠牲者ではない。
あれから華月は魂が抜けた人形の様になった。
「飯喰えるか?」
「もう眠れ」
「外行くか?」
何を言っても答えがない。
そんな華月に俺は不安ばかりが募った。
「にぃ様…」
その言葉を聞くたびに、恐怖を感じた。
ある早暁。
「秀吉様!秀吉様ぁ!」
女中の慌恐の声で飛び起きた。
「華月⁉︎」
恐れていた事が起こった。
華月の横たわる布団に赤い染みが広がっていた。
「馬鹿か⁉︎なんて事をっ」
短刀で手首を掻切っていた。