第30章 春待ちて氷柱落つー前ー(秀吉)
「返してッ!返してよぉ‼︎
私の大切な、唯一の家族なの!
兄様を返してっ‼︎」
号喝しても、
「春には帰って来るって言ったの!
にぃ様の嘘つき!
藤吉にぃの、嘘つきッ!
嘘つき、嘘つき、嘘つき‼︎
何にも変わってないっ。
虫のいい事ばっかり言って‼︎
皆嘘つき!」
罵っても、
「嫌い嫌い大嫌い!」
怨憎をぶちまけても、
「何で黙ってるの⁉︎
何で何も言わないのッ!」
秀吉様は何も言わず、拳を握り締め、
眉間に皺を寄せ、責苦の表情で唇を一文字に結んでいるだけだ。
帰って来た私の大切な人は、
かろうじて首が繋がり、
腹には鉄砲の穴が空いて…変わり果てた姿だった。