第29章 目醒めなくなるまでの幸せは(光秀)
「華月、何刻だ?」
「今、夜四つ、亥の刻を過ぎた頃です」
「亥の刻…こんな遅くまで…」
「もう少しして、光秀さんが起きなかったら寝ようと思ってましたよ」
笑う。
いつもの笑顔。
朗らかで温かい、心が緩まる笑顔。
「葛薬湯でも入れましょうか?」
「いや…いい…」
「そうですか…」
笑顔がちょっと萎んだ。
「……薬湯を頼んだら、お前が俺の前から居なくなるだろう」
「ぇ……」
華月が眼をパチクリさせてから、
意味を察したのか頬を赤くした。
それが面白くて
「…俺が寝るまで、そこに居てくれ。
今、他には何もいらない…」
思っている事を言ってみた。
「…光秀さんが、そんな素直に……」
「素直な俺は、おかしいか?」
「変ですよ。…だけど…嫌じゃない、ですっ…」
プルプルと頭を振る。
「…生きて、お前を見れて良かった…」
「!」
みるみるうちに、華月の眼が潤んで涙が溜まる。
「…うんっ、うんっ、良かったっ…
…光秀さん、生きてて、良かったっ……
良かったよぉ…」
華月が俺の手を両手で握り締めて涙を零す。