第18章 雨と紫陽花ー後ー(信長)
「やれえぇーーっ‼︎」
「走れッッ」
「はいっ」
男と信長がほぼ同時に声を上げ、
華月が身を翻し、坂を下り出す。
「女をつかまえろ!」
華月を追わせない為の盾は信長自身。
(止まるな、振り向くな)
華月が脱兎の如く駆け出すと、
転がるように坂を下るのを信長は背中で感じていた。
(…お前が血を見る必要はない)
血を浴びるのは自分だけで十分だ。
笑って刀を構え直す。
その様子、確認しないで信長は、
愉しげに襲いかかってくる男達の刃を躱し、
自らも刀を振るう。
刀が空気を裂き、刀が刀を弾く高音に、
くぐもった呻き声、ドサッっと荷が地面に落ちるような重い音。
暫しの喧騒は、
あっという間に静かになった。