第16章 愛を冷遇する者 R18ー後ー
華月の音がする。
いや、俺の音かも知れない。
『生きている』音。
死に囚われ、縛られていた俺を華月は救い出してくれた。
息を整えながら、華月の汗に湿った前髪を撫で分けた。
「謙信様……ようやく、その瞳に、
私を、映してくれましたね…」
ホッとした様子で、華月が柔らかに笑った。
「ああ」
「良かった……。
もう、私を縛ったり、目隠ししたりしないで下さいね。
気持ち良い事を怖れないていいんですよ」
華月が俺の後頭部を撫でながら、
童にでも言い聞かせるかのように話す。
「そうだな…すまなかった…」
謝罪の言葉と口付けをおくると、
「いいんです。
謙信様はずっと苦しんでた……」
「ああ、これからはきちんとお前を見る。だから………」
「だから?」
クルンっと丸い眼が俺を窺う。
「最後にしないでくれ。
信玄の処になど往かず、俺の側にいてくれないか?ずっと…」
神妙な様子で告白すると、
クスッっと笑われた。