第3章 桜散る(家康)
元々、母の顔は覚えていなかった。
育ててくれた祖母は優しくて厳しかった。
今川での生活は待遇こそ悪くはなかった。
教養も武剣術も学ばせてもらった。
でも、
奇異、嫉妬、嘲りからは逃れられず、
針の筵のように感じながら、
それをじっと耐えていた。
1番キツかったのは、
三河衆を見る事だった。
自分の家臣が、今川に良いように使われる。
しかも、今川の盾のように、
先鋒(せんぼう)として戦に駆り出される事が、
辛くて、苦しく、申し訳なかった。
(俺に力がないから…強くもない…
誰かを、皆を守れる力が欲しい…)
※先鋒…戦で先陣を切り、退却においては
追撃を最後まで防ぐ危険で過酷な役。