第3章 桜散る(家康)
桜はハラハラと泣くように散る。
だから、桜は嫌いだ…。
『家康、お花見しない?
桜、綺麗だよ?』
『俺は…桜、好きじゃないから…』
そう言って華月の誘いを断った。
今川で人質になって暮らしていた時、
暗い日々だった。
辛くて、寂しくて、悲しくて、
悔しくて、不甲斐なくて、
よく泣いていた。
春の日、桜の木の下で、泣いたのを思い出す。
ボロボロと溢れる涙。
上からはハラハラと桜の花びらが散り降り落ちてきていた。
涙を堪えようと上を見上げても、
桜が泣いて、俺の涙も止まらなかった。
そんな思い出が、今でも俺の心を塞いで、
桜は好きになれないでいた。
『……』