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第20章 ▲月華美人▽ *明智光秀* -拾壱-
相容れない信長の両腕が、一歩も譲らず火花を散らす。
「…信長様がお前への書状に認めたこと、その記憶すらも煙に消えたか」
光秀の、瞳が開く。
「…なぜ、お前が知っている…」
憎々し気に呟き、主君を見遣る。
信長からの書状を燃やし、白紙の物と入れ替えた。
秀吉が知っているということは即ち、信長も了解している事だろう。
だが、今は些末なことだ。
「尻拭いだ、扇動だと?…こんな小娘に、俺が誑かされたとでもいうのか…?」
暗く重い光秀の声が、静かに響く。
「随分と舐めた方便だ―…笑止っ!」
言うなり、片腕で二振りの刀をいなし、ハナの元へ駆けだした。
「駄目っ…やめてっ!!」
ハナの叫び声。
光秀の後ろから、鯉口を切る音がする。
―――しかし。
不意に、空気が変わる。
駆けながら振り返った光秀もまた、その光景に足が止まった。
刀に手をかけた政宗、秀吉の前に、三成が立ち塞がっていた。
石田正宗を水平に両手に掲げ、鯉口に手をかけていた。
「…三成…お前、なんで…っ!?」
秀吉の、怒りの霧散した声がした。
「秀吉様…お願いです。私にこれを抜かせないでください」
三成の声が、懇願する。
「三成…?」
光秀ですら、信じられぬ思いでその背を見つめていた。
「主君の本懐を汲んでこその忠臣、なのでしょう?私の主君は、秀吉様です。であれば、主君のために諫言するのが側近たる私の務め」
誰一人、微動だにしない。
再び三成の声が響いた。
「私は、この儀に納得がいきません。筋が通らない。なにより…秀吉様が、御苦しそうです」
「―――…っ!」
秀吉の、息を飲む音がする。
「お考え改めを…秀吉様。そして、光秀様…」
―――どうか、ハナ様を。
その声と共に、光秀の足が再度駆けた。