▽▲ 大人ノ玩具箱 ▲▽【イケメン戦国】(R18)
第26章 ▲月華美人▽ -エピローグ-
次いで、愛らしい声がした。
「あーくぅん~…」
「起きていたのか?」
「う?」
己と同じ、黄金色をした円らな瞳がこちらを見返してきた。
小さなその手を、こちらへ伸ばし…
「あきゅっ!」
よくわからない奇声を出した。
ふっと小さな笑いを漏らし、光秀がしーっと人差し指を口唇に当てる。
「う?」
自分とよく似た柔らかな銀の髪を揺らして、小首を傾げて光秀を見た。
起き上がり、その小さな体を抱き上げる。
ハナはまだ、眠りの中だ。
起こさぬように、赤子を抱えて静かに閨から張り出しへ出た。
朝の心地よい風が吹いていた。
赤子の体が冷えぬよう、胸の内に抱え込む。
腕の中、小さな体が、光秀の温もりに甘えるように擦り寄ってきた。
「姿形は俺に似たが、やはりお前は、母親似だな」
「あぃ!」
返事をするかのように、赤子が鳴いた。
その姿に目元を緩め、その視線を上げた。
大きな琵琶湖のその向こう側に、安土城がそびえて見えた。
今日、ハナたちと共に登城する。
この日を迎えるまでに、2度の秋が巡っていた。
張り出しから見える城下を見渡す。
光秀が身を隠している間、その領地は秀吉が拝領した形を取った。
「…大きな借りが、できたものだな…」
以前と変わらず光秀を迎えたその風景に、ぽつりと小さく呟いた。
腕の中、赤子がもぞもぞ動く。
抱きなおし、苦笑する。
「御屋形様の御前では、大人しくしているんだぞ。あまりおいたは、してくれるなよ?」
光秀の言葉が、解かったのかどうか。
赤子は、キョトンと光秀を見上げた後。
―――シャラランッ
鈴の音が転がるような、笑い声を上げていた。
その顔を見つめ、光秀もまた、笑っていた。
赤子の笑い声にのり。
一頭の白い蝶が舞い上がる。
蝶は静かに、二人の周りをくるくる舞った。
しかし、二人の瞳にそれは映らず。
蝶はやがて、空へとふわり、舞い立った。
ひらり、ひらり。
空へ、空へ―――
その行く先は蝶のみぞ知る……
ーfinー