▽▲ 大人ノ玩具箱 ▲▽【イケメン戦国】(R18)
第19章 ▲月華美人▽ *明智光秀* -拾-
「光秀さんは…やっぱり、裏切ったわけじゃなかったんですね…」
ハナの心は、しかし重く沈んでいた。
「それが、明智光秀という男だ」
信長の声が、静かに響く。
己の行動が、光秀の唯一の鎧をひとつひとつ、剥がしていたのだ。
誤ったその一歩を、自分が進ませようとしていたのだとしたら…
カタン。
軽い音を立てて盃を膳へと戻した。
手が震える。
私の、してきたことは…
「気付いたか」
低い声に、憐れみが混じる。
「私は…光秀さんの邪魔…だった…?」
「少なくとも、上杉の飼い猿を騙し果せる程の力はなかったな」
秀吉の疲れ果てた声がする。
「俺も、お前に諭されて目が覚めたクチだ」
震える手で、顔を覆う。
涙は出ない。
冷たく血の気の失せた指先が、額に食い込む。
「光秀さんは…今、どこに…っ」
「貴様の邪魔だてがあり、計画倒れて、彼奴の居場所は安土にも春日山にもなくなった。彼奴の領土に謹慎を言い渡している」
「―…っ無事なのですね!?」
「今はまだ、な…」
意味深な信長の言葉に、再び不安の影が渦巻く。
「奴の計画は破綻したが、汚名は未だ雪がれておらん。どころか、この信長の基盤が揺らいでおる兆しと見る輩もある」
「光秀に、お咎めなし…とはいかなくなってな」
信長の言葉を、政宗が引き継ぐ。
「噂とはいえ、そこに乗じる輩が現れ始めてからでは後手に回る。今のうちに噂の元を断ち切らなきゃならねぇ」
「…その、噂の元を…私に、と…?」
「…察しがいいな?」
政宗の隻眼が、複雑に歪んで笑う。